昨日久しぶりにPさんが来院されました。一応健康診断で、高かったコレステロールも正常となり、すべての薬から解放されて笑顔でお帰りになりました。

Pさんは、私が研修医を終えて初めて主治医として受け持った卵巣癌の患者です。いや、でした。
 そのころは、まだ「癌の告知」は一般的なコンセンサスがなく、家族にまず話すことが多かったのですが、彼女は離婚して、子供はまだ小さく対応に苦慮しました。結局思い切って本人に告知したのですが、聡明なPさんは冷静に受け止め、駆け出しの私を信じて、2回の手術と6回の化学療法に耐えてくれました。その後私は医局の人事で、多摩地区から神奈川に移動になったのですが、連絡は取り合っていて、東京に戻ってからはまた、私の外来に来てくれるようになりました。

 私は、医師になって受け持った癌の患者さんすべてと連絡を取るようにしているのですが、訃報に接するのがもっとも辛いときです。

 一応5年再発がなければ治癒と見なすのですが、それでも抗癌剤の副作用や手術の後遺症が患者さんを苦しめることも少なくありません。

 Pさんは幸い、再発もなく、お子さんも立派に成人独立し、悠々自適の日々を送っているようで、いつ会ってもあの頃のままの聡明な笑顔が返ってきます。

 「先生のおかげで、今もこんなに元気に過ごせています。」
この言葉をいただいたときが、医者になって良かったと最も思う至福の時です。