1本の耳掻き

私の診察室のペン立てには、いつも1本の耳掻きがあります。

ふつうの耳掻きです。
それは20年ほど前に、以前杏林大学助教授をされていた方の自宅を訪ねたときにいただきました。
その先生は耳掻きを沢山持っていて、趣味で集めているのかと思っていたのですが、そうではありませんでした。

「吉岡君、これはね。耳をかっぽじって、患者の話を良く聞け、と言う、いましめなんだよ。」そう教えてくれました。
そして、1本をわたして、「きみも患者の話にまず耳をかたむける、そんな医者になれよ。」とおっしゃいました。

それから、どこの病院に行っても私のデスクには1本の少し古ぼけた耳掻きがあります。